【連載】第20回:私たちが提示する代替案

【連載】第20回:私たちが提示する代替案

【連載】『原発ゼロ社会への道 2017』論点紹介 第20回
第2章 東電福島原発事故現場の実態と後始末

2.私たちが提示する代替案
(p.103-105、特別レポート1)

前回の投稿では、政府と東電が提示する廃炉に向けた中長期ロードマップがいかに実現困難で、労働者の被ばくに対する配慮に欠けるかということを指摘した。そこで原子力市民委員会は、これに代わる案を特別レポート『100年以上隔離保管後の後始末』として提言した※1。本投稿は、その主張を簡潔に紹介する。

代替案の立案にあたって市民委員会が重要視するのは、以下の3つの点である。

  1. 環境への放射性物質放出量の最小化
  2. 被ばく労働量の最小化
  3. 「後始末」作業の総費用(国民負担)の最小化

これは、原子力市民委員会が、発足当初から、核廃棄物に関わる基本的な考え方としてきたことであり、特別レポート2『核廃棄物居管理・処分のあり方』に「核廃棄物管理・処分の技術的3原則」として示したことと共通である※2
そして、そのために当面の間は、放射能を隔離管理する作業を行い、燃料取り出しは100~200年後に行うか、もしくは半永久的に外構シールド(原子炉建屋の外側に造る鉄筋コンクリート製の壁と屋根)で囲った状態で保管を継続することを提案する。

それは、事故から6年後の2017年と、100年後の放射線量を比較すると、その値はほぼ1/16まで減少し、200年後には1/65になるからだ。仮にデブリ取り出しをするのであれば、放射性物質放出量や被ばく労働量を考慮すると、そのような長期保管を経た後に実行すべきである。ただ、2017年2月に行われた調査において確認された2号機格納容器内の放射線量が、最大で毎時約80シーベルトであったことを考慮すると、200年後においてもデブリ取り出しは容易ではない。そこで、現時点における知見では、外構シールド内にそのまま半永久的に保管しておくことを推奨する、ということである。

一般的に言って、作業を長期化するということに対してマイナスなイメージがあるかもしれないが、原発事故の後始末においては、むしろそうするべきなのである。それは、上記のように放射線量や被ばく量に関することのみならず、総費用においても言えることである。

次の表は、現行の中長期ロードマップ、100年隔離保管後に後始末を行うと仮定した代替案①、200年隔離保管後に後始末を行うと仮定した代替案②、そして外構シールドにより半永久的な隔離保管を行うと仮定した代替案③の、終了時期、労働者と被ばく総量、そして費用総計の見積もりをまとめたものである。

出典: 2017年12月25日 原子力市民委員会 『原発ゼロ社会への道 2017』※3

見積もり数値の詳細については、原子力市委員会の「福島事故「後始末」の対案プロジェクトチーム」が作成した特別レポート1『100年以上隔離保管後の「後始末」』をご参照いただきたいが、表にある通り、代替案の費用総計は、いずれも現行の中長期ロードマップを大きく下回る。労働者の被ばく量に当たっては、半分以下である。

より多くの費用をかけ、より多くの被ばくを労働者にもたらし、実現不可能なまで早く作業を終了しようとする。そこまでして早さを求める理由は何か。政府は、今ある環境と社会を優先させる実行可能な政策づくりを行う必要があり、そうなると、中長期ロードマップは大きく見直されなくてはならない。


※1. 原子力市民委員会 福島事故「後始末」の対案プロジェクトチーム(2017)『100年以上隔離保管後の「後始末」』改訂版、原子力市民委員会 特別レポート1 http://www.ccnejapan.com/?p=7900
※2. 原子力市民委員会 核廃棄物問題プロジェクトチーム(2015)『核廃棄物管理・処分政策のあり方』,P.9, http://www.ccnejapan.com/?p=6183
※3. 原子力市民委員会(2017)「原発ゼロ社会への道 2017―脱原子力政策の実現のために」p.105, 2017年12月25日