高浜1号機の寿命延長は危険だ――当てにならない老朽化予測 〔井野博満〕

高浜1号機の寿命延長は危険だ――当てにならない老朽化予測 〔井野博満〕

1970年代に運転を始めた古い原発 1970年代に運転を開始した古い原発は2011年には18基あったが(右表)、福島第一原発事故の後、福島第一を含む11基はすでに廃炉が決まった。

 残る7基のうち5基は、関西電力が所有している。原発の運転期間は原則40年と定められているが、関電は高浜1号機・2号機、美浜3号機の運転をさらに20年延長して60年使うという申請を今年4月、原子力規制委員会に提出した。中でも高浜1号機は、すでに廃炉が決まった九州電力玄海1号機や中国電力島根1号機より古く、すでに運転開始から41年も経っている。もし延長が認められれば国内で最も古い原発となる。 

 古い原発では、機器や配管、配線、建屋などで、さまざまな形で老朽化の影響があらわれる。特に最重要機器である原子炉圧力容器は、長年の運転で放射線を浴び続けるため材質が劣化して脆性破壊(ぜいせいはかい)を起こすことが心配されている。

 脆性破壊のメカニズムは以下のようなものだ。原発のトラブルで緊急炉心冷却装置(ECCS)が働くと、圧力容器に冷却水が急速に送り込まれ、約300度になっていた圧力容器の内側は一気に冷やされる。鋼鉄製の圧力容器は厚さ約20センチ(高浜1号の場合)もあるので、容器の内側だけが先に冷えて縮むことで、容器の外側には強い引っ張り力が加わる。もともとひび割れがあれば引っ張られて拡大し、最悪の場合は原子炉容器が破損する。それは大事故に直結する。

 圧力容器の鋼鉄がどれだけの強さを持つか示す「破壊靭性曲線」と、ひび割れを大きくさせる力を示す「応力拡大係数」は冷却時の温度によって変わってくるが、その大小を比較することで(図1)、圧力容器の安全性を確かめられる。この曲線が交わる(デッドクロス)ことになれば、圧力容器の粘り強さより、ひび割れを大きくさせる力の方が大きいことになり、破壊が起こりうる状況だとわかる。

図1:PTS評価の概要図2:同じ60年後の予測を比較

 圧力容器は放射線で年々脆くなるため、破壊靭性曲線は運転開始後だんだん右下に移動し、デッドクロスに近づく。関電が2015年に提出した「高経年化技術評価書(40年目)」は、運転開始後60年時点でもデッドクロスは起きないとしている(図2)。ところが奇妙なことに、2003年に関電が提出した同様の評価書と比べてみると、予測値は大幅に異なっている。たとえば100度における値は2.5倍も違う。2003年時点での予測は大甘だったことになる。

 こんなに予測が違うのは、破壊靭性曲線の信頼性が著しく低いことを示している。40年目の予測も、30年目予測と同じぐらい不確実さがあるならば、デッドクロスが生じてもおかしくない。高浜1号機の圧力容器の老朽化は危険域に達している可能性があり、そのような原発の寿命延長は行うべきではない。