「原発ゼロ社会への道」 -原子力市民委員会のブログ-

防災避難計画の無理〔筒井哲郎〕

防災避難計画の無理〔筒井哲郎〕


 住民の被曝を低減するためには、防災避難計画を原発の安全審査と合わせて判断する必要があります。しかしこの計画の立案や審査は原子力規制委員会の所掌外となっており、計画策定は地元自治体に押し付けられています。一方、米国では敷地外の緊急時避難計画は州や地方政府が作成してFEMA(連邦緊急事態管理庁)が審査することになっており、その上でNRC(米原子力規制委員会)が事業所内の緊急時対策との整合性を確認して運転許可を行うことになっています。ニューヨーク州ロングアイランドに建設されたショーラム原発は、地元の郡当局が最終的に避難計画策定を拒否したため、建設後一度も運転されないまま廃炉にされました。スリーマイル島事故を契機にした住民たちの反対運動が郡議会を動かしたことが背景にありました注1

 避難にかかる時間も問題です。原発の運転制御室で事故を把握し、現地対策本部や電力会社本店を経て、旧原子力安全・保安院などの行政機関が措置を決め、県庁や地元自治体に連絡をするのに福島事故では5時間かかりました。しかも情報がファクスで送られても、役所の機能が失われていたため、実際には住民に情報が行き渡りませんでした注2。メルトダウンしてから、格納容器の破損やベント(気体の一部を排出する措置)で放射性物質が放出されるまで2時間程度しかありません。今の計画では、地元住民は避難中に高濃度被ばくを受けることになってしまいます注3

 福島事故までは、メルトダウンが発生した時点で、SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワーク)で汚染予想を住民に知らせる予定でした。それが福島事故の際に機能しなかったという理由で、規制委は今後緊急時の避難用には利用しないといっています。測定車を走らせて汚染を実測し、避難指示を出すのだと言います。つまり予報ではなくて汚染被害が出てから通知するというのです。これはあまりに無策と言わねばなりません。

 道路も深刻な渋滞が予想され、自家用車で逃げる場合、原発にもっとも近い人々が30km圏内を脱することができるのは24時間を超えると予測されています。原発に近い地域の人びとから段階的に避難してもらう、という2段階避難計画は絵に描いた餅です注4。さらに、要介護施設などの入所者には、未だ確たる計画が立っていません。福島事故の際、多くの避難弱者が避難途中で死亡したことは記憶に新しい事実です。その問題は未だに解決されていません。

  注1. 卯辰昇「米国原子力開発の停滞と再生可能性に関する法的考察」早稲田法学会誌第49巻(1999)、pp.109
     https://dspace.wul.waseda.ac.jp/dspace/bitstream/2065/6528/1/A05111951-00-049000109.pdf
     アイリーン・スミス「解体を待つショーラム原発」『反原発新聞』第165号、1991年10月20日
     http://greenaction-japan.org/internal/911020_Shoreham.pdf
  注2. 末田一秀「原子力防災見直しの課題」原子力資料情報室公開研究会資料、p.13
     http://www.cnic.jp/files/20130202_CNIC_81study.pdf
  注3. Study2007『見捨てられた初期被曝』岩波科学ライブラリー、2015年、p.17
  注4. 上岡直見『原発避難計画の検証』合同出版、2014年

About author

筒井 哲郎
筒井 哲郎

1941年生まれ。元化学プラント技術者。プラント技術者の会、NPO法人APAST理事。東京大学工学部機械工学科卒。千代田化工建設株式会社などのエンジニアリング会社で、国内外の石油プラント、化学プラント、製鉄プラントなどの設計・建設・試運転に、プロジェクト・マネージャ等として携わる。著書に、『戦時下イラクの日本人技術者』(三省堂、1985年)など。原子力市民委員会 原子力規制部会長。