指定廃棄物のダブルスタンダード〔原子力市民委員会〕

指定廃棄物のダブルスタンダード〔原子力市民委員会〕

 東京電力福島第一原発事故で放出された放射性物質は、広い範囲で自然環境や住民の生活環境を汚染しました。その後始末で政府の不条理な施策が続いています。問題の一つは「指定廃棄物」を巡るものです。

shitei3 稲わらやごみの焼却灰、上下水道施設の汚泥などで8000ベクレル/kgを超えて汚染されているものは「指定廃棄物」とされ、昨年末時点で12都県で計約17万トンが保管されています。指定廃棄物に関わる制度には、わかりにくい点がいくつもあります。一つは8000ベクレルという値です。福島原発事故の前までは100ベクレル/kgを超えると放射性物質として扱わなければなりませんでした。ところが事故後に慌ただしく策定された放射性物質汚染対処特措法(特措法)は基準を80倍も引き上げました。その結果、8000ベクレル/kg以下の廃棄物は、東日本を中心に各地のごみ焼却工場などで安易に燃やされる事態になっています。

 もう一つは、指定廃棄物は地域や廃棄物の種類が限定されているため、それに該当しない廃棄物は通常のごみ扱いされてしまうおそれがあることです。具体的には、指定廃棄物が生じるのは汚染状況重点調査地域に指定された8県104市町村などに限られ、また対象の廃棄物も焼却灰や汚泥、稲わらなどに限定されています。

 指定廃棄物の管理や処分も迷走しています。指定廃棄物は国が費用を負担して減容焼却と最終処分をするとして、各県で最終処分場候補地を決めることを特措法の基本方針で定めています。しかし、栃木県、千葉県などで候補とされた地元自治体は一貫して反対しており、処分場建設のめどは立っていません。宮城県では、候補地とされた3自治体の強い反対を受け、県知事が「候補地返上」も含めて再検討するため雪解け後の現地調査の中止を国に申し入れるとの姿勢を示し、これをうけ、環境省も宮城県の候補地での詳細調査を当面見送るとしています。国(環境省)は、茨城県では1県1か所という当初の方針を撤回して地域分散方式を認めたり、「指定廃棄物最終処分場」を「長期管理施設」に名称変更したり、場当たり的な対応を続けています。

 岩手県と埼玉県では指定廃棄物の最終処分場問題が起きていませんが、背景には別の問題が隠されています。両県の知事と市長村長は、国に指定の申請をせず、国や東電に費用を請求しないまま独自に汚染廃棄物を焼却・処分しつつあるようなのです。特措法にもとづいて指定廃棄物として処分すると、最終処分場の問題が浮上することへの警戒感があるように思われます。
 すべての汚染都県で、統一された判断基準と包括的なビジョンに基づいた施策が必要です。その際、汚染されているかどうかの線引きは、特措法による8000ベクレル/kgではなく、事故前に定められた100ベクレル/kgで定義するべきでしょう。

 詳しくは、原子力市民委員会核廃棄物問題プロジェクトチーム
 特別レポート「核廃棄物管理・処分政策のあり方
  3.1.2 放射性物質に関するダブルスタンダード
  3.1.3 指定廃棄物の管理・処分に関するダブルスタンダード