熊本地震をきっかけに、あらためて原発への不安が高まっています。原子力市民委員会は「新規制基準を見直すべきだ」とする声明を5月17日に発表しました ※1 。3年前に施行された新規制基準の欠陥が、今回の地震で明確になったからです。運転中の九州電力川内原発1・2号機を止めて、見直した基準のもとで審査をやり直すべきだと訴えています。
新規制基準の欠陥は、大きくわけて二つあります。
一つは、事故の時に住民の安全を守るための地域防災計画が「絵に描いた餅」で、実際には役に立ちそうもないことです。現在の計画では、原発からおおむね5キロより遠い場所では、屋内退避が基本となっています。しかし今回の地震のように地震で家が壊れたり、屋内にとどまっていることが危険な状況だったりすれば、それは不可能です。地震と原発事故の複合災害では、屋内退避方針は危険性を高め、混乱を招いてしまいます。
また、高齢者や入院患者など要援護者の受け入れ先や避難の具体的手順が決まっていないことや、避難に必要なバスが確保できるのか、運転手に被ばく覚悟の仕事を強いることができるのか、などの問題も未解決のままです。
地域防災計画がきちんと実効性を持つことが、原発の運転許可の必要条件となっていないため、防災計画づくりや実施が自治体に丸投げされていることが欠陥の原因になっています。手続きを改めて、電力事業者が立案して自治体と協議したうえで合意した計画を、原子力規制委員会に申請し、規制委が内容を確かめてから運転の許認可を与えるかたちにするべきです。
もう一つは、新規制基準の中でも重要な耐震設計審査基準が不十分なことです。現在の基準では、想定している基準地震動Ss ※2 が襲ったときに重要施設や設備が曲がったり傾いたりして変形が完全に元に戻らない状態(塑性変形)になったとしても、安全機能を失わなければ良いこととされています。しかし、今回の熊本地震のように、大きな揺れが繰り返し襲来しすることは想定していません。
熊本地震では、1回目の震度7で変形したものの耐えた建物が、2回目以降の揺れで倒壊した例が少なくありませんでした。それと同じことが原発でも起こりうるのです。
そもそも基準地震動Ssを決める時に、電力事業者が作為的に小さくできる余地が新規制基準では残されており、それも抜本的に見直す必要があります。
原子力規制委員会の本来の役割は、川内1・2号機の安全宣言を出すことではありません。熊本地震で明らかになった新規制基準の欠陥を解消するために、一刻も早く見直しを進めることです。川内原発だけでなく、関西電力高浜原発、四国電力伊方原発の再稼働も凍結し、見直した規制基準のもとで再度審査をするべきでしょう。
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※2 地震学及び地震学的見地から施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があり、施設に大きな影響を与える
おそれがあるとして、原子力規制委員会が認め、耐震設計の評価に用いるもの