「原発ゼロ社会への道」 -原子力市民委員会のブログ-

幻想のデブリ取り出し〔筒井哲郎〕

幻想のデブリ取り出し〔筒井哲郎〕


はじめに
 去る5月29日(日)に、NHK総合テレビでNHKスペシャル「廃炉への道2016 核燃料デブリ 迫られる決断」が放映された。
 「迫られる決断」とは、政府および東京電力が決めた「中長期ロードマップ」に従うと、「デブリ取り出し方法を2017年までに決めることを迫られている」という意味に過ぎない。つまり、当事者たちが困難な計画を立てて、それに合わせるように頑張っているシーンを宣伝するかのような番組であった。具体的には、東芝が格納容器の冠水計画を実物大模型で実験し、日立が気中取り出しのケースに備えて遠隔操縦のロボットを開発し、エネルギー総合工学研究所が韓国の研究所と協力して溶け落ちたデブリの分布を推定する実験を行っている内容である。その映像や語り口はかつての「プロジェクトX」を彷彿させるものであった。
 落ち着いて観察すると、夢を語って開発を推進するあまたの「原子力開発計画」の一種と考えられる。

1.責任があいまいな契約
 これらの研究費用は、技術研究組合国際廃炉研究開発機構(IRID)を通じて国家予算からそれぞれの研究グループに支給されている。そして研究開発を名目とするこれらの費用は、通常の業務委託契約と異なり、成果の保証や期限や総額が納税者たる一般市民に分かりやすい形で明示されていない。放映されたデブリ取り出しに関わる開発業務は、まだまだ緒に就いたばかりで、1年半程度の期間で確実な見通しが立つとは思えない。

160627_1_2 もんじゅをはじめ多くの「原子力開発」でずるずると同様の契約で費用が支出されていることを想起しよう。政府が開発委託をして成り行き任せに単年度ごとの開発予算を注入し続けながら、専門家たちの危惧通りに終わった「凍土壁」もその一つだ※1。その経緯を簡単に振り返っておく。つまり、2013年度の開発予算を136億円支給することで契約し、翌年度の予算を184億円追加して合計320億円とした。そして現在は345億円になっている。被災者たちへの正当な賠償すらなされていないことと比較すると、このような安易な投入は公正とは思えない。また、当初の完成予定は2015年3月であった。工事の結果、昨年7月の第16回汚染水処理対策委員会に提出された試験結果でほぼ失敗が明らかになり、さらに東電は本年5月に、何らかの追加措置を加えなければ凍土壁が閉止を完結しないことを認めた※2。これも開発契約であったこと、成果保証や納期期限がない契約であったことが共通している。要するに仕事が成り行き任せで「失敗しました」といえばそれで免責される契約であることに注意をしなければならない。

2.プロジェクト・マネジメントの不在
160627_1_3 どのような開発プロジェクトであれ、プロジェクト・マネジメント組織が明示され、マネージャーが前面に出て、出資者に対して責任ある説明をしなければならない。現在は、そのような組織の説明がなく、ただ末端の担当者たちが右往左往している映像が放映されただけである。もしIRIDが全体を統括しているのであれば、理事長の山名元氏が前面に立って、納税者に全体計画を説明しなければならない。少なくとも先般のテレビ放送では、「どうなるか分からない」と他人事のように評論するだけであった※3

3.後始末には100年以上必要
 デブリ取り出しを含む福島第一原発事故炉の後始末は、100年以上の時間をかけて放射能の減衰を待ちながら、安全と被ばく労働に配慮して着実に行うべきことをわれわれは提言した※4。拙速に30~40年で後始末を完了させるという政府・東電の現行ロードマップは幻想である。

 被ばくを避けるために格納容器に水を満たす冠水計画は、それが可能であれば望ましいが、現在の格納容器の耐圧性能では冠水すると設計圧力に達してしまう。また、転倒防止のシアラグの設計荷重が過小になる。したがって、もしその間に地震荷重が加わると大破する恐れがある※5。また、冠水のために格納容器周辺で作業するには放射線量が高すぎる。

 正常に運転を終了して、使用済み核燃料を安全にとりだす原発の廃炉期間が、通常30年弱と設定されていることを考えれば、事故によって溶融した核燃料が飛散している福島の事故炉の後始末期間は、100~200年を設定することが当然である。


※1. 日本陸水学会「福島第一原発における凍土遮水壁設置にかかわる意見書」2013年9月20日
  http://www.jslim.jp/?p=199
  浅岡顕「凍土壁が抱え込んだ1F汚染水問題の困難」『世界』2016年3月号
※2 第16回汚染水処理対策委員会、2015年7月29日
  「凍土壁1割凍結せず 東電、追加工事検討」『朝日新聞』2016年5月26日
※3. プログラム・マネジメントおよびプロジェクト・マネジメントの組織を確立してこれらの問題に取り組むべきことは、つとに原子力
  市民委員会が提言したところである。
  「事故収束と汚染水対策の取り組み体制についての緊急提言」2013年8月28日
  http://www.ccnejapan.com/20130828_CCNE_01.pdf
  『原発ゼロ社会への道』2014年4月12日、p.87
  http://www.ccnejapan.com/20140412_CCNE.pdf
※4. 特別レポート『100年以上隔離保管後の「後始末」』原子力市民員会、2015年6月
  http://www.ccnejapan.com/20150608_CCNE_specialreport.pdf
※5. 筒井哲郎「格納容器冠水計画の危険性」『科学』Vol.84 No.8 (2014), p.818

About author

筒井 哲郎
筒井 哲郎

1941年生まれ。元化学プラント技術者。プラント技術者の会、NPO法人APAST理事。東京大学工学部機械工学科卒。千代田化工建設株式会社などのエンジニアリング会社で、国内外の石油プラント、化学プラント、製鉄プラントなどの設計・建設・試運転に、プロジェクト・マネージャ等として携わる。著書に、『戦時下イラクの日本人技術者』(三省堂、1985年)など。原子力市民委員会 原子力規制部会長。