甲状腺がん子ども基金、検査の拡充訴え 福島県外でも重症の子ども〔満田夏花〕

甲状腺がん子ども基金、検査の拡充訴え 福島県外でも重症の子ども〔満田夏花〕

 福島県外でも甲状腺がんが重症化している子どもたちの存在が指摘されている。

 「3・11甲状腺がん子ども基金」(代表:崎山比早子氏、原子力市民委員会アドバイザー)は、2016年12月から、東日本の15の都県※1における25歳以下の甲状腺がんの患者たちへの療養費給付事業を始めた。今年1月までに発表された給付対象は、福島県および近隣県・関東の患者53人(うち福島県内が41人、福島県外が12人)。福島県外では、検診体制が不十分なため発見が遅くなり、肺転移など重症化しているケースが目立った。

 現在、子どもたちの甲状腺の一斉検査が公的に行われているのは福島県だけだ。県外では、個々の自治体や民間団体による自主検診が行われているにすぎない。福島県に隣接する宮城県丸森町では2015年7月から2016年4月にかけて1,564人が超音波検査を受けた結果、1人ががん、1人ががんの疑いとわかった。茨城県北茨城市では、2014年度に18歳以下3,593人が受診し、3人が甲状腺がんと診断されている。

 同基金の崎山代表は、「検査を縮小するという話があるが、実態をみればむしろ逆。拡大・充実させ、早期発見・早期治療に努めるべき」とコメントした。

 基金が危機感をつのらせるのは、福島県でも検査の縮小を求める動きがあるからだ。

 日本財団の笹川陽平会長は、2016年12月9日、「検査を自主参加にすべき」とする提言書を内堀雅雄知事に提出。専門作業部会を開いて今後の検査体制の方向性を示すよう求めた。ただし、日本財団が9月に開いた国際専門家会議でも、検査を縮小することで一致したわけではない。

 2017年2月20日までに公表された資料によれば、福島県で事故当時18歳以下の子どもたちで甲状腺がん悪性または疑いと診断された子どもたちの数は184人、手術後確定は145人になる。国立がん研究センターの津金昌一郎氏(がん予防・検診研究センター長)は、福島の子どもたちの甲状腺がんの数は、2010年当時の「約60倍」としている(2014年11月時点)。

 福島県県民健康調査委員会は「事故の影響は考えづらい」としている。理由には(チェルノブイリ原発事故時と比べて)被ばく量が少ない、小さな子どもたちにがんが見られないことなどを挙げている。

 一部の専門家たちは、「多く発生している」ことの説明として、「過剰診断論」を唱えている。「過剰診断」とは、ここでは「生命予後を脅かしたり症状をもたらしたりしないようながんの診断」をさす。しかし調査委員会の甲状腺評価部会長で、日本甲状腺外科学会前理事長でもある清水一雄氏は

①本来ならば甲状腺がん患者の男女比は1対7と女性が圧倒的に多いのに、チェルノブイリも福島も1対2以下になっていること
②1巡目の検査でせいぜい数ミリのしこりしかなかった子どもに2年後に3cmを超すようながんが見つかっていること

を挙げ、「放射線の影響とは考えにくいとは言い切れない」としている。(2016年10月21日付北海道新聞)

 過剰診断説に対しては、甲状腺がん検査および手術の責任者である福島県立医大の鈴木眞一教授は、以前より、「過剰診断」という批判に対して、手術を受けた患者は「臨床的に明らかに声がかすれる人、リンパ節転移などがほとんど」として、「放置できるものではない」と説明してきた。手術を受けた96人の症例についての鈴木教授の報告が2015年8月31日に公開されており、リンパ節転移が72例にのぼること、リンパ節転移、甲状腺外浸潤、遠隔転移などのいずれかに該当する症例が92%にのぼることが明らかにされている※2

 前述の「3・11甲状腺がん子ども基金」の給付対象の患者でも再発例がみられ、楽観視できない。

 チェルノブイリ原発事故の後、甲状腺疾患だけでなく、多くの疾病が報告されており※3、包括的な健診が実施されている。しかし、日本においては、被ばくの影響を把握するための体系だった健診はいまだ行われていない。



※1. 岩手県、宮城県、山形県、福島県、新潟県、栃木県、群馬県、茨城県、千葉県、埼玉県、東京都、神奈川県、
   静岡県、山梨県、長野県
※2. 原子力市民委員会特別レポート3(http://www.ccnejapan.com/?p=7353)pp.8-9参照。
※3. 「チェルノブイリ被害調査・救援」女性ネットワーク翻訳資料 ウクライナ政府(緊急事態省)報告書 『チェルノブイリ
   事故から 25 年 “Safety for the Future”』などによる。