原発ゼロ・エネルギー転換戦略に関するレポートの紹介〔原子力市民委員会〕

原発ゼロ・エネルギー転換戦略に関するレポートの紹介〔原子力市民委員会〕

原子力市民委員会の原発ゼロ行程部会(第3部会)メンバーの明日香壽川さん(東北大学東北アジア研究センター教授)から、2019年6月に発表されたレポートの紹介がありましたので、掲載します。(原子力市民委員会事務局)

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 2019年6月25日、「未来のためのエネルギー転換研究グループ」は、日本における脱原発、脱温暖化をめざすために必要な2030年および2050年のエネルギー・ミックス・シナリオおよび具体的な制度改革に関するレポート『原発ゼロ・エネルギー転換戦略:日本経済再生のためのエネルギー民主主義の確立へ』を発表しました。

 内容(全48ページ)は、本戦略にしたがった目標設定や制度改革があれば、脱原発、脱温暖化は既存の技術で十分可能であり、かつ日本経済の再生にもつながることを具体的に定量的な数値と共に示しています。下記は、サマリーとも言える「原発ゼロ・エネルギー転換宣言」です。

1. 原発・化石燃料依存が続けば日本経済は沈没!
原発は、最も発電コストが高く、最もリスクが大きく、廃棄物処理の目途は全く立っていません。そのような未熟な発電技術に頼った日本企業は、多額の損失を抱え、経営困難に陥っています。交通分野でも、電気化など大きな変化が起きていますが、日本企業は、流れに乗り遅れています。原発・化石燃料依存政策が続けば、日本経済は停滞するのみで、その再生は永遠に不可能になります。

2. 原発ゼロ・エネルギー転換で経済発展と脱温暖化!
欧州やアジアの国々は、原発ゼロ、再生可能エネルギー100%、石炭火力フェーズ・アウトなどの目標を持っています。それによって、数百万の雇用が生まれ、地域と国全体の両方の経済発展が実現しています。世界の多くの国で、再生可能エネルギーは最も安い発電技術です。2050年再生可能エネルギー100%などをめざせば、日本でも家庭や企業の光熱費は減り、雇用は増え、地域は潤い、経済は発展し、脱温暖化も実現できます。

3. 未来はボトムアップの自立分散型ネットワーク!
「大規模集中・独占・トップダウン型」のエネルギー産業社会は、非民主的で暴力的で不公平で脆弱で非効率的です。そのため、現在、世界中の国や地域が、再生可能エネルギー、エネルギー効率化、IoT技術などを活用して、自立した個人や地域を主体とするボトムアップ型のエネルギー産業社会への転換を目指しています。その目的は、一人一人の安全と安心と経済発展をもたらす民主的な社会システムの構築です。

4. 原発ゼロ・エネルギー転換で真の平和自主外交!
多くの戦争はエネルギーや資源を巡るものです。原発は核兵器につながっており、地球温暖化は難民発生や軍事的紛争の大きな一因となっています。原発ゼロ・エネルギー転換は、近代日本史上、初めて海外に依存しないクリーンな持続成長を実現します。それは日本の安全保障環境を格段に強化し、真の自主外交の展開によって、世界平和のため、自信と誇りを持って新しい役割を果たすことを可能にします。

 この他に、エネルギー転換戦略の基本原則、エネルギー転換戦略の具体的数値目標、エネルギー転換戦略の経済効果、エネルギー転換戦略の政策(再生可能エネルギー主力電源化、エネルギー効率化、原発ゼロ・福島第一原発事故収束、地球温暖化対策、電力システム改革、政策決定システム改革、エネルギー分野の世界貢献)が詳細に書かれています。

 「未来のためのエネルギー転換研究グループ」は、大学や研究機関に所属する研究者や再生可能エネルギーに関わる実務家などによって構成されています。多くのメンバーが、日本のエネルギー・環境政策に関する定性的な議論と定量的な議論の両方に深く関わってきました。

 本戦略は、米国で話題となっているグリーン・ニュー・ディールを意識した内容で、日本では、このような包括的で具体的なエネルギー環境政策に関する提言はほとんどなかったかと思われます。今後の日本でのエネルギー・環境政策に関する建設的な議論のプラットフォームになれればと考えています。ご一読をいただけると幸いです。

未来のためのエネルギー転換研究グループ(五十音順)
明日香壽川(東北大学教授)、飯田哲也(環境エネルギー政策研究所所長)、佐々木寛(新潟国際情報大学教授)、田中信一郎(千葉商科大学准教授)、槌屋治紀(システム技術研究所所長)、松久保肇(原子力情報資料室事務局長)、松原弘直(環境エネルギー政策研究所理事)、山崎誠(衆議院議員)
コメント協力
西村六善(元地球環境問題担当大使)、西岡秀三(地球環境戦略研究機関参与)、金子勝(立教大学教授)、竹村英明(市民電力連絡会理事長)