【連載】第1回:避難者数の把握の難しさ

【連載】第1回:避難者数の把握の難しさ

【連載】『原発ゼロ社会への道 2017』論点紹介 第1回
第1章 東電福島原発事故の被害と根本問題
テーマ1: 福島原発事故後の避難をめぐる「現状」と向き合う

1-1.避難者数の把握の難しさ(pp.34-36)

原子力市民委員会が2017年12月に発行した『原発ゼロ社会への道 2017―脱原子力政策の実現のために』は、全310ページと分厚く、カバーしているテーマは多岐にわたります。そこで、事務局では本日から、各章の項目や節をいくつかのテーマに分けて、その内容を一部抜粋・編集したブログ記事を連載していくことになりました。本書の主要な論点を皆さんにお伝えできれば幸いです。

まず「第1章 東電福島原発事故の被害と根本問題」については、次の4つのテーマを設定しました。

テーマ1: 福島原発事故後の避難をめぐる「現状」と向き合う
テーマ2: 被災者の「健康被害」を捉え直す
テーマ3: 原発事故の責任はどこに?
テーマ4: 被災者のための法整備とは?

初めのテーマは、「福島原発事故後の避難をめぐる『現状』と向き合う」です。福島原発事故から8年が経ちました。「復興」が声高に叫ばれる中、個々の避難者の日々の生活や営みは、現状の政策の下で本当に守られているのでしょうか。この記事を読んでくださっている皆さんと一緒に考えていくことができればと思っています。なお、関連の連載記事は、主に2017年12月発行の書籍に記載した情報をもとにしており、現在更新されている情報を全て網羅することはできていません。その点に関しては、ご了承ください。

それでは早速ですが、テーマ1の第1回連載記事は、「避難者数の把握」について取りあげます。

———————————————————-

福島原発事故の避難者の正確な数を把握することは、難しい。

福島県によれば、同県内から県内外への避難者は、2016年3月21日の時点で7万7283人だったが、約1年半後の2017年8月14日時点では、5万6272人に減少した※1。さらに、それから約1年が経った2018年7月12日時点では、福島県内から県外への避難者は3万3517人まで、同年7月31日時点における同県内間の避難者は、1万836人まで(県内外合計で4万4353人まで)減少したとされている※2

しかし、これらの数の推移の理解には、注意が必要だ。なぜなら、実際に避難している人数と、避難者として数に計上される人数は、一致していないからだ。例えば福島県は、災害公営住宅などに入居した人々を、避難者数の集計から除外している※3。また、政府指示の避難区域外からの避難者に関して、福島県によれば、2016年10月時点で1万524世帯、約2万6601人以上とされていたが、その内訳は示されておらず、どの程度正確な数なのかは不明である。

さらには、福島県以外からの避難移住者については、公的住宅支援が震災直後の緊急支援のみで打ち切られたという事情もあり、行政による把握は十分に行われていない。山梨・京都・大阪・岡山・福岡などで移住者の受け入れなどの支援をしている民間団体や関係者が把握するところでは、福島県からの移住者よりも首都圏からの移住者の方が多いとされるが、正確な実数についての調査は困難である※4。そうだとすれば、実際の避難者数は政府や自治体によって公表されている数よりも相当多いはずである。

2012年5月の段階で、福島県からの避難者は約16万5000人だったことを考慮すると、数の上では、避難者数は大幅に減少している。しかし、そのうちどの程度が実際に帰還し、どの程度が避難先で定住したのかということについては、不明である。

震災後の2012年に全面改定された、福島県総合計画「ふくしま新生プラン」は、2020年までに避難者ゼロにすることを、1つの目標として掲げている※5。避難者数の把握が難しい中で、実質を伴わない、名目上の数ばかりが1人歩きしないように、注視する必要がある。

 
 
>>この連載の目次・他の記事はこちら


※1.原子力市民委員会(2017)「原発ゼロ社会への道 2017―脱原子力政策の実現のために」p.34, 2017年12月25日(福島県災害対策本部(2017)「平成23年度東北地方太平洋地震による被害状況即報(第1707報)」2017年8月14日
※2. 福島県災害対策本部(2018)「平成23年度東北地方太平洋地震による被害状況即報(第1744報)」2018年8月6日
※3. 前掲(2017)p.35, 2017年12月25日(NHK(2017)「福島県発表の避難者に2万4000人余含まれず」, NHK NEWS WEB, 2017年3月12日)
※4. 原子力市民委員会(2014)「原発ゼロ社会への道―市民がつくる脱原子力政策大綱」pp.27-28, 2014年4月12日(早尾貴紀(2014)「原発避難の実態と『避難の権利』」『インパクション』 194 pp.9-13)
※5. 前掲(2017)p.35, 2017年12月25日(福島県企画調整部復興・総合計画課(2012)「福島県総合計画 ふくしま新生プランー夢・希望・笑顔に満ちた“新生ふくしま”(概要版)」 p.3)