【連載】第2回:避難をめぐる主権のありか

【連載】第2回:避難をめぐる主権のありか

【連載】『原発ゼロ社会への道 2017』論点紹介 第2回
第1章 東電福島原発事故の被害と根本問題
テーマ1: 福島原発事故後の避難をめぐる「現状」と向き合う

 

1-2.避難をめぐる主権のありか(pp.35-40)


 
日本政府は、2015年6月12日に「原子力災害からの福島復興の加速のための基本指針」を閣議決定し、居住制限区域、避難指示解除準備区域を、遅くとも2017年3月までに解除する方針を示した※1。また、2016年12月の改訂版の中では、「帰還困難区域」について5年をめどに線量の低下状況もふまえて避難指示を解除し、居住を可能とすることを目指す「復興拠点」の整備について盛り込んだ。実際に、2014年4月1日に田村市、2015年9月5日に楢葉町、2016年度中に葛尾村、川内村、南相馬市避難指示(帰還困難区域を除く)が解除され、2017年3月及び4月1日には、帰還困難区域を除く飯舘村、川俣町、浪江町、富岡町に対する避難指示が解除となった。避難指示が解除されると、精神的賠償は一律2018年3月で終了し、NHK受信料や保険料の免除なども打ち切られる。

しかし、避難指示解除に反対もしくは否定的な住民は多く、解除されても帰還しない住民も多い。例えば、2016年10月に発表された政府の意向調査(回答率46.3%)によれば、2017年4月1日に避難指示解除が決まった富岡町において「戻りたい」と考えているのは全体の16%にとどまり、そのうち37.5%は「時期は決めていないがいずれは戻りたい」と回答している。また、「戻りたい」と回答している割合は高齢者において高く、「戻らない」と回答している人数は30代が最多である※2。原子力市民委員会が富岡町からの避難者に対して行った聞き取り調査でも、「若い世代は、避難先でそれぞれの生活を始め、戻ってこないだろう。戻るのは高齢者ばかりだろう。」という指摘があった※3
 
 


出典:2016年10月25日富岡町住民意向調査 調査結果 (速報版2016年10月25日)※4

 
 
そもそも、避難指示解除にあたり、政府はその条件として、1) 空間線量率で推定された年間積算線量が20ミリシーベルト以下になることが確実であること、2) 生活インフラが復旧していること、3) 県、市町村、住民との十分な協議を行うこと、という3点を挙げている。しかし、各地で開かれた説明会は、政府の方針を説明するにとどまり、住民の意見を意思決定に反映させるものではなかった。現地対策本部の職員が避難指示解除にあたり開かれた会合で「(行われるのは)説明であって協議ではない」と発言したことが、明らかになっている※5

避難指示の解除から2017年9月で丸2年を迎えた楢葉町では、帰還した町民は2割強、そのうち50歳以上が62%を占め、授業が再開した小学校3校でも、通うのは同町に在籍する児童の25%にとどまり、他の子どもたちは避難先の学校で学んでいるという状況であった。

また、富岡町、楢葉町、浪江町、南相馬市などにおいては、廃炉関連事業や復興関連事業への従事者が「新住民」として流入しているという側面もあり、避難指示が解除された地域の人口回復が、必ずしも元住民の帰還によるものであるとは言えない。2016年7月に帰還困難区域を除いて避難指示が解除された南相馬市小高区では、2017年6月末の時点での住民登録人口に対する居住率は24%であったが、元住民だけ見てみると13%ほどであった※6

避難指示解除に関する方針が打ち出され、相次いで解除が行われる中、帰還した住民は明らかに少ない。県、市町村、住民との十分な協議を、避難指示解除の条件の1つとして挙げながらも、実態として住民の意向を取り入れないのであれば、避難者の生活や暮らしを軽視したものだと言わざるを得ない。ここで改めて、避難をめぐる主権のありかを見直す必要があるのではないか。

 
 
>>この連載の目次・他の記事はこちら


※1.原子力市民委員会(2017)「原発ゼロ社会への道 2017―脱原子力政策の実現のために」p.35, 2017年12月25日(閣議決定「原子力災害からの福島復興の加速のための基本指針」, 2016年12月20日)
※2.前掲(2017)p.36 (復興庁「平成28年度 原子力被災自治体における住民意向調査」, 2017年3月7日)
※3.前掲(2017)p.37 (原子力市民委員会福島原発事故部会による富岡町民への聴き取り。2017年2月2日郡山市にて。)
※4.同上
※5.前掲(2017)p.36 (内閣府原子力被災者生活支援チームの参事官の発言(2014年4月16日の内閣府と南相馬市との会合において)。この発言は、南相馬・避難20ミリシーベルト基準撤回訴訟の弁護団による南相馬市への情報開示請求によって明らかになった。)
※6.前掲(2017)p.39 (寺島英弥(2017)「7年目の再出発でも晴れない南相馬市『精神科病院長』の『苦悩』と『怒り』」新潮社フォーサイト電子版, 2017年8月9日)