【連載】第3回:自主避難者の切り捨てと自治体による独自支援策

【連載】第3回:自主避難者の切り捨てと自治体による独自支援策

【連載】『原発ゼロ社会への道 2017』論点紹介 第3回
第1章 東電福島原発事故の被害と根本問題
テーマ1: 福島原発事故後の避難をめぐる「現状」と向き合う

1-3.自主避難者の切り捨てと自治体による独自支援策
(pp.40-41)

 
2017年3月、多くの避難者の暮らしを支えてきた国による無償住宅供与が打ち切られた。その対象となったのは、政府指示の避難区域外からの避難者、いわゆる「自主避難者」で、その数は約2万6千人に上った。ただ、この数字は正確とはいえない。避難者数の把握方法に自治体間の差があるからだ。

2011年12月、文部科学省に置かれている原子力損害賠償紛争審査会は、中間指針追補で「自主的避難等対象区域」(福島県内23の市区町村)を指定し、それら地域からの避難者を「自主的避難者」と定めて、彼らに対する賠償方針を示したが、その金額は少なく、避難にかかる経費をカバーするには程遠い額であった※1

福島県が2016年1月から3月にかけて実施した「住まいに関する意向調査」(対象1万2436世帯、回答率59.7%)によると、県外避難者の5割以上が避難継続を希望し、そのうち77%は2017年4月以降の住宅が決まっていないという結果だった※2。その後の福島県による調査では、2017年2月17日の段階で、250世帯(全体の2%)の4月以降の住まいが「未確定」であることが明らかになっている※3

「自主避難者」もしくは政府の定める「自主的避難者」においては、少額の賠償や打ち切られる支援を前にして、孤立、困窮化しているケースが多い。その中には、高齢者、障がいを抱えている人々、シングルマザーなど、もともと社会的な支援を必要としている人々も含まれる。そのような状況を横目に、彼らの存在を軽視する、文字通り「切り捨て」の政策が進められているのである。

他方で、人道的立場から独自の支援策をとる自治体もあった。次の表は、都道府県または市区町村が行う支援策の一部を抜粋したものである。

 

自治体 主な支援内容
鳥取県
  • 2019年3月まで県営住宅棟の提供を延長※4
山形県
  • 民間借り上げ住宅の入居期間を1年延長※5
  • 県内での転居費用を最大5万円補助(条件なし)※6
  • 県職員公舎50戸を2019年3月まで無償提供※7
札幌市
  • 市営住宅の提供を1年延長※8
新潟県
  • 公営住宅への引っ越し代の支援および民間住宅の家賃補助の上乗せ※9
神奈川県
  • 1世帯当たり最大1万円の家賃補助※10
埼玉県
  • 自主避難者が誰でも応募できる公営住宅50戸の提供
  • 県営住宅の自主避難者特別枠100戸の提供
  • 県管理以外(市町村管理)の公営住宅や宅建協会にも「県の方針」を伝えて追い出しをできるだけしないよう通知し敷金礼金についての配慮を求める※11
東京都
  • 都営住宅の専門枠300戸を提供(世帯要件、所得要件など条件を細かく設定※12

 

この他にも、北海道、新潟県、沖縄県、埼玉県川越市は家賃補助に踏み切ったが、そもそもこれらの地域における家賃が高いという問題がある。また、打ち切り対象避難者が717世帯と最も多く、支援の必要性が最も高い東京都は、都営住宅の専用枠を設けたものの、家賃補助に関する支援は実施していない。

なお福島県は、2017年3月に無償住宅給与を終了した後、低所得者に対する家賃補助事業を継続していたが、2019年3月末をもって終了する。これをもって、上の表で紹介した多くの自治体も家賃補助の上乗せを終了する予定だ。一部、住宅支援を継続する自治体もあるが、条件が設定されており、数が限られている。

 
 
>>この連載の目次・他の記事はこちら


※1.原子力市民委員会(2017)「原発ゼロ社会への道 2017―脱原子力政策の実現のために」p.40, 2017年12月25日(原子力損害賠償紛争審査会「中間指針追補(自主的避難等に係る損害について)の概要」, 2011年12月6日)
※2.前掲(2017)p.40 (福島県避難者支援課, .「『住まいに関する意向調査』結果等」, 2016年6月20日)
※3.前掲(2017)p.41 (福島県生活拠点課, 「避難指示区域以外からの避難者の4月以降の住まいに関する意向(速報値)」, 2017年2月17日)
※4.前掲(2017)p.41 (鳥取県東日本大震災避難者等総合支援チーム, 「鳥取県へ避難された方への支援策」, 2017年8月.)
※5.前掲(2017)p.41 (山形県広域支援対策本部, 「東日本大震災に係る福島県からの避難者に対する借上げ住宅の入居期間の延長について」, 2017年9月1日)
※6.前掲(2017)p.41 (山形県危機管理・くらし安心局, 「福島県の避難指示区域以外からの避難者に対する本県独自の支援について」, 2016年12月21日)
※7.同上
※8.前掲(2017)p.41 (札幌市都市局市街地整備部住宅課 「東日本大震災被災者に対する市営住宅の提供について」, 2016年11月13日)
※9.前掲(2017)p.41 (新潟県 「自主避難されている方々への支援策について」, 2016年8月31日)
※10.前掲(2017)p.41 (神奈川県安全防災局安全防災部災害対策課 「福島県からの自主避難者への家賃補助を実施します」, n.d.)
※11.前掲(2017)p.41 (SAFLAN(福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク), 「埼玉と東京の区域外避難者の借上住宅打ち切りに対する施策の比較」, 2016年12月7日作成資料
※12.前掲(2017)p.41 (東京都都市整備局都営住宅経営部指導管理課 「福島県自主避難者向け都営住宅入居者の募集について(結果)」, 2016年12月21日)