【連載】第5回:被ばくと甲状腺がんの関係性をめぐって

【連載】第5回:被ばくと甲状腺がんの関係性をめぐって

【連載】『原発ゼロ社会への道 2017』論点紹介 第5回
第1章 東電福島原発事故の被害と根本問題
テーマ2: 被災者の「健康被害」を捉え直す

2-1. 被ばくと甲状腺がんの関係性をめぐって
(pp.44-46)

 
 

原子力市民委員会が2017年12月に発行した『原発ゼロ社会への道 2017―脱原子力政策の実現のために』は、全310ページと分厚く、カバーしているテーマは多岐にわたります。そこで、事務局では、各章の項目や節をいくつかのテーマに分けて、その内容を一部抜粋・編集したブログ記事を連載していくことになりました。本書の主要な論点を皆さんにお伝えできれば幸いです。

今日からは、「被災者の『健康被害』を捉え直す」というテーマの下で、記事を連載したいと思います。福島原発事故後の被災者の健康被害をめぐる議論は、事故から約8年経った今も、様々に行われています。そこで今回は、被ばくと健康をめぐる議論に焦点を当て、「健康被害」とは何か、そもそも「被害」とは何か、といったことについて、この記事を読んでくださっている皆さんと一緒に考えていくことができればと思っています。

テーマ2の第1回目の連載記事は、被ばくと甲状腺がんの関係性について取りあげます。

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被ばくによる健康被害の可能性についてなかなか実態の把握が進まない中、唯一行われている体系的な検査が、福島県県民健康調査である。同調査では、事故当時18歳以下であった福島県内の子どもたち約38万人を対象に、甲状腺の状態を調べる超音波検査が実施されている。

2017年10月23日に開催された第28回「県民健康調査」検討委員会(以下検討委員会)までに福島県が公表した資料によれば、同調査において甲状腺がん悪性またはその疑いと診断された子どもたちの数は194人、手術後確定(甲状腺摘出手術の後、病理検査において甲状腺がんであることが確定した数)は155人であった※1。2018年9月5日には第32回検討委員会が開催され、悪性あるいは悪性の疑いがあると診断された数は202人(そのうち1人は良性結節)、手術後確定した数は164人であると報告された※2

しかし、実際に甲状腺がんと診断された子どもの一部が、この数に含まれていないことが明らかになっている。甲状腺がん患者を支援する民間団体「3・11甲状腺がん子ども基金」※3によると、事故当時4歳であった男の子は、2014年の甲状腺検査の2次検査において経過観察とされた後、福島県立医大で穿刺細胞診を経て2015年にがんと診断され、その後2016年に甲状腺の摘出手術を受けてがんであることが確定したが、最終的な罹患者の数には含まれていなかった。これは検討委員会が、2次検査において経過観察とされた後に甲状腺がんが見つかった事例については報告していなかったことによる。2次検査で経過観察となっている受診者は、2017年6月30日の時点で計2,829人にのぼり、それを考慮すると、上記のデータから漏れている罹患者がまだ増える可能性がある。

また、放射能汚染は県境を越えて広い範囲に及んでいることを認識し、福島県外の甲状腺がんをめぐる実情にも注目する必要がある。「3.11甲状腺がん子ども基金」が2017年4月に公表したアンケート調査結果によると、療養費の支援を行った81名(福島県58人、県外23人)のうち、肺転移などによるアイソトープ治療の対象となった罹患者が10名(福島県内2人、県外8人)であった。福島県のような公的な検診体制がない周辺県でも甲状腺がんが確認されており、発見が遅れたためその一部が深刻化した可能性があるという事実に留意すべきである。

さらにアンケート調査では、甲状腺がんへの罹患に関して、多くの人に打ち明けていない状況が見て取れた。これは福島県内で被ばくに関して語ることが困難な「もの言えぬ」空気が、より一層患者たちを追い詰めていることも考えられる。「被ばくや健康不安について語りにくい」状況は、福島県内のみならず周辺県でも同じように住民に重くのしかかっており、そのストレスが心身の健康に影響するといった悪循環をもたらしている。

なお、原子力市民委員会は、2018年4月20日に、「福島第一原発事故による被災者に対する健康調査の拡充を求める意見書を国(環境省、厚生労働省、文部科学省)と福島県に提出した。本意見書では、現在の健康調査の批判的な検討と、新たな健康調査の提案を行っている。読者の皆さんには、ぜひご覧いただきたい。

 
 
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※1.原子力市民委員会(2017)「原発ゼロ社会への道―脱原子力政策の実現のために」p. 44, 2017年12月25日(福島県「県民健康調査」検討委員会資料 http://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/kenkocyosa-kentoiinkai.html
※2. 福島県「甲状腺検査結果の状況」「第32回県民健康調査」検討委員会資料http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/287524.pdf, 2018年9月5日
※3.前掲(2017)p.45 (https://www.311kikin.org/