【連載】第8回:錯綜する「責任」の所在を問う―1

【連載】第8回:錯綜する「責任」の所在を問う―1

【連載】『原発ゼロ社会への道 2017』論点紹介 第8回
第1章 東電福島原発事故の被害と根本問題
テーマ3: 原発事故の責任の所在を問う

3-1. 錯綜する「責任」の所在を問う―1
(pp.59-60)

 
 

原子力市民委員会が2017年12月に発行した『原発ゼロ社会への道 2017―脱原子力政策の実現のために』は、全310ページと分厚く、カバーしているテーマは多岐にわたります。そこで、事務局では、各章の項目や節をいくつかのテーマに分けて、その内容を一部抜粋・編集したブログ記事を連載していくことになりました。本書の主要な論点を皆さんにお伝えできれば幸いです。

今日からは、「原発事故の責任の所在を問う」というテーマの下で、記事を連載したいと思います。福島原発事故の責任を問う動きは、日本各地で繰り広げられています。そこで今回は、誰が何に対して責任を取るべきなのかといった、原発事故の責任の所在と種類のあるべき姿について、この記事を読んでくださっている皆さんと一緒に考えていければと思っています。

テーマ3の第1回目と第2回目の連載記事は、原発事故における錯綜する「責任」の問題について、続けてその概要を紹介します。

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福島原発事故の責任は、大まかに2つに分けることができる。1つは「原発事故を発生させた責任」であり、もう1つは「事故の被害を拡大させた責任」である。いずれも、これまで科学的に証明されてきている問題を放置し、それと同時に未だ科学的に不確実な危険性について予防的な立場を取ってこなかった、すなわち過小評価に基づいて安全対策を怠ってきたことによる責任である。今回は、「原発事故を発生させた責任」について、見ていく。

原発事故を発生させた責任」の所在は、多岐にわたる。原子力政策を推進させてきた国、それを支えてきた原子力産業や、安全論を唱えてきた学者やメディアなどにも、広く責任があると言える。しかしここでは、東電の責任について取り上げる。そして、強制起訴された東電幹部3名(勝俣恒久元会長、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長)の刑事裁判が行われている今、彼らの責任の有無についても、併せて考えたい。
 

福島原発事故を起こした東電の責任としては、

1)想定された事故への対策が取られなかった責任
2)対策が取られたにもかかわらず効果を持たなかった責任
3)事故にいたる過程で適切な対応が取られなかった責任

の3つが挙げられる。
 

1)としては、例えば、福島原発における津波対策が該当する。これは、どの程度の津波が、どの程度の確率で到来するのかといったことを、どの程度東電が認識しており、それらを踏まえて、事故が発生するまでの間に十分な津波対策が取られなかったのは過失なのか否か、東電に責任はあるのか否かという問題である。 現在の動向として、この点は刑事裁判の大きな争点となっている。すなわち、原発事故を引き起こすこととなった巨大な津波を、東電側は事前に予測していたのか、もしくはすることが可能だったのかという点だ。刑事裁判で強制起訴された東電幹部3名は、当時いずれも津波対策を行うかどうか判断する立場にいた。彼らの過失の責任はどうあるのか。この点に関しては、次々回の記事において、詳しく説明したい。

2)に関しては、地震対策が挙げられる。2006年9月20日、元原子力安全・保安院(経産省の外局である資源エネルギー庁の元特別機関)は、「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(新耐震指針)に基づいて、東京電力に対して原発の耐震補強を指示した。これを受けて、東京電力は、福島第一原発は5号機建屋、第二原発では4号機建屋で検証を行い、「耐震安全性が確保されていることを確認」したと、中間報告に記載していた※1。しかし実際には、東日本大震災の際に鉄塔が倒壊したことなどによって、外部からの全交流電源喪失が発生した。地震対策を行ったが、それが十分に機能しなかったことは明らかであり、これは付属設備に対する評価のあり方の問題なのか、それとも新耐震指針の問題なのかについて、検討する必要がある。この点に関しては、原子力市民委員会が2013年6月19日に発表した緊急提言「原発再稼働を3年間凍結し、原子力災害を二度と起こさない体系的政策を構築せよ」を、ご参照いただきたい。

3)については、福島第一原発事故における事故の収束作業が、実際に「手順書」に従って行われていたかどうかという点である。この点に関しては、今後解明する必要がある※2。しかし、少なくとも「その者に重大事故…の発生及び拡大の防止に必要な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力がある」という、原発の設置また運転に関する「許可の基準」という要件を満たしていたかについては、疑問を持たざるをえない※3
 

次回は、「事故の被害を拡大させた責任」について、皆さんと一緒に考えていきたい。
 
 

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※1.原子力市民委員会(2017) p.59 「原発ゼロ社会への道―脱原子力政策の実現のために」, 2017年12月25日(東京電力「福島第一原子力発電所および福島第二原子力発電所『発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針』の改訂に伴う耐震安全評価結果 中間報告書の概要」, 2018年3月31日プレスリリース
※2.同上(2017), p.60 (斎藤誠(2015)『震災復興の政治経済学』 日本評論社、第7章参照。また、月刊誌『世界』2015年10月号、12月号、2016年2月号、3月号に連載されたシリーズ「解題『吉田調書』ないがしろにされた手順書」での田辺文也による記述を参照。
※3.当時は、原子炉等規制法第43条の3の6に記されていたが、2017年4月14日の改正によって、第14条の1に記されるようになった。 「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」, 2017年4月14日改正, 2018年10月1日施行