【連載】第14回:避難政策を比較する―福島とチェルノブイリの原発事故―

【連載】第14回:避難政策を比較する―福島とチェルノブイリの原発事故―

【連載】『原発ゼロ社会への道 2017』論点紹介 第14回
第1章 東電福島原発事故の被害と根本問題
テーマ4: 被災者のための法整備とは?

4-3.避難政策を比較する
―福島とチェルノブイリの原発事故―

(pp.73-74)

 

今回は、福島原発事故による避難者に対する支援策について、特に避難区域のゾーニングに注目し、チェルノブイリ原発事故における避難政策と比較しながら見ていく。同じ放射能汚染に対する避難政策であっても、それぞれの内容は大きく異なる。その違いに注目することによって、福島原発事故による避難政策の問題点を明らかにしたい。

以下が、福島原発事故後の避難政策とチェルノブイリ原発事故後の避難政策におけるゾーニングを比較した表である。


(出典:原子力市民委員会(2017)『原発ゼロ社会への道―脱原子力政策の実現のために』, p.74)

まず、それぞれの避難政策には、政策を実行する根拠となる法律が存在する。福島原発事故は、原子力災害対策特別措置法に基づいて、行政の裁量で基準の決定と運用がされたのに対して、チェルノブイリ原発事故においては、チェルノブイリ原発事故被災者保護法(チェルノブイリ法)のもとで実施されている。この表にあるように、生涯被ばく限度に対する考え方や、土壌汚染基準の有無に関して、全くその認識が異なることも注目すべき点だが、避難政策に直接的な違いをもたらすものとして、ゾーニングの種類の違いに注目したい。

チェルノブイリ法のもとでは、被災地域は次の4つ―①立ち入り禁止(30km圏内)、②義務的移住(年間5mSv以上)、③移住権の保障(年間1~5mSv)、④社会的経済特典(年間0.5~1mSv)―に分けられた。③に該当する人々は、避難(移住)もしくは残留を自ら選択することができ、かつ支援を受けることができる。また、居住者への被ばく防護と健康保障という位置付けで、保養、医療、健康診断、医薬品、非汚染食料の提供などの支援が行われている。

それに対し、福島原発事故においては、大まかには年間20mSvを基準に、避難指示区域かそうでないかが区切られた。具体的には、①政府指示の避難区域(年間20mSv以上)、②特定避難勧奨地点(世帯指定、年間20mSv以上)、③それ以外の3つである。避難もしくは残留の選択に関しては、①に該当する人々は選択できず、②に該当する人々は、どちらかを自ら選択することができる。③に該当する人々は、選択できるが、ほとんど支援はない。また、②の特定避難勧奨地点に関しては、世帯ごとでの指定、すなわち地域ではなく該当する住民の指定であり、中間的な分類として機能するというよりは、コミュニティの分断を招くことに繋がっている。居住者への被ばく防護や健康保障に関しては、除染や食品の測定、福島県内に限っては県民健康調査が実施されているが、そういった居住者の健康を守るための対策よりも、放射能汚染に対する不安対策に注力されている傾向にある。

ここで改めて、ゾーニングに焦点を当てて両者を比較してみると、チェルノブイリ法が、居住可能とはされたが移住権が保障されたゾーン(年間1~5mSv)や、定期的なモニタリングの対象で社会的経済的特典が受けられるゾーン(年間0.5~1mSv)のような中間的なゾーンを設けている一方で、福島原発事故においては、そのようなゾーンが設けられてこなかったことがわかる。特定避難勧奨地点は中間的な扱いと言えるかもしれないが、世帯ごとの指定であり、なおかつ測定の方法も不安定で、住民が不信感を持ち、コミュニティの分断を招くこととなってしまった。

そもそも、年間20mSvという避難と帰還の基準には法的根拠がなく、基準の設定や運用は、行政の裁量に任されているという問題がある。そのような状況で、自らの住む地域がこの基準以上か以下かで、避難に際する支援を受けることができるかどうかや得ることのできる支援が大きく変わってしまうというのが、避難者の直面している現状である。被災者の生活を守るためのゾーニングはどうあるべきなのか。国の避難政策は、今一度見直される必要がある。