【連載】第17回:新たな立法の必要性

【連載】第17回:新たな立法の必要性

【連載】『原発ゼロ社会への道 2017』論点紹介 第17回
第1章 東電福島原発事故の被害と根本問題
テーマ4: 被災者のための法整備とは?

4-6.新たな立法の必要性
(p.80-81)

これまでは、現存の法整備の問題点について見てきた。今日は、そういった指摘を踏まえて、どういう法律が必要なのか、原子力市民委員会の提案する法律の理念や内容を紹介する。以下、『原発ゼロ社会への道2017―脱原子力政策の実現のために』のP.80とP.81の内容を、そのまま掲載する。
 

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「子ども・被災者支援法」の理念を具体化しつつ、放射能汚染防止や被ばく防護を実現するため、長期的に以下の方針を盛り込んだ新たな立法を検討すべきであり、そのための幅広い議論を行うべきと考える。

・放射性物質を公害物質に位置づけた環境基本法をふまえて、以下の2案を検討する。

【A案:既存の法律の改正】
大気汚染防止法、水質汚濁防止法、土壌汚染防止法などの環境関係法令で放射性物質を公害物質として位置づけ、大気、水質、土壌、廃棄物、薪炭、建築材、農業資材および生活資材、産業資材などの環境基準、排出基準および含有量基準などを定める。また、それらを常時監視し、違反に対しては迅速かつ適切な法的規制をする体制を都道府県および政令市、中核市を軸として整備する。従来の環境汚染物質と同様に、違反に対しては操業停止などの罰則も定める。

【B案:新法】
同様の措置を〈放射能汚染防止法〉によって位置づける。

  • 放射性物質による汚染や被ばくを「被害」として位置づける。事業者は、汚染や被ばくへの賠償責任を負うとともに、国は被害者を救済する責任を負う。
  • 事故を起こした原子力施設、除染などの作業員も補償・救済の対象とする。
    被ばくを避ける権利を認め、尊重する※1
  • 年間被ばく量および土壌汚染濃度の精確な調査にもとづき、重点的に支援を行うべき地域、それに準ずる地域を定める※2
  • 居住に関する自己決定の尊重とそれを可能にする施策を盛り込む。
  • 被害者救済には、避難支援、被ばく防護、保養、健診、医療支援を含んだものとする。
  • 避難支援は、長期にわたる原子力災害の特質をふまえ、移動・住宅・職業・教育・医療の支援、生活再建支援、コミュニティの維持を含んだものとする。
  • 健診および医療支援は、「予防原則」に立つ疾病の未然防止と早期発見を目的とし、事故当時18歳以下に限定せず、幅広い対象に将来にわたって定期的に無料で実施する※3
  • 被害者の健康を終生支えるため、および、医療費減免のための健康手帳の発行、本人への適切な情報開示、説明機会の確保を行う。
  • 被ばく防護に関する基本的な方針をふまえ、それを各地で効果的に実施するための計画を自治体・教育機関などで立案する。
  • すべての施策立案および実施において、被害者および関心を有する市民の参加を保障する。
  • 被害者、避難者、支援団体等と関係行政機関からなる常設の協議機関を設置し、継続的に意見を聴取および施策への反映を行う。
  • 避難者の権利保障と支援にあたっては、国際法における「国内避難民」(IDPs)の概念を適用し、国際基準(政策ガイドラインなど)に照らして施策の点検と評価を行うことも求められる。

 

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※1. 詳しくは、『原発ゼロ社会への道』(2014)の1-4-1「『被ばくを避ける権利』とその意義」(pp.48-50)を参照。
※2. チェルノブイリ法では、年間1ミリシーベルト以上または土壌中のセシウム137の濃度が3万7000ベクレル/㎡以上を「汚染地域」として支援の対象とした。日本国内においては、年間1ミリシーベルト以上の地域を支援対象にすべきことについては、すでに被災者・支援者から何度も要請があり、原賠訴訟前橋地裁判決(2017年3月17日)においても言及されている。ICRPの公衆被ばく限度の勧告もあり、日本国内においても一部、放射線障害防止法などの法令に明記されているなど、一定の定着がなされているといってもよい。土壌汚染レベルについては、日本においては放射線管理区域の基準が、非アルファ核種について4ベクレル/㎠(4万ベクレル/㎡)(ウラン、トリウム以外のアルファ核種について0.4ベクレル/㎠)であることから、新たなゾーニングの境界基準のひとつの目安として考えられる。
※3. 健診および医療支援については、すでに「子ども・被災者支援法」第13条において明記されているため、これを根拠法として、個別法を制定することが当面の目標となろう。なお、健康被害が明確に出て認定されるまで「被害」は存在しないという限定的な考え方は著しく不当であり、行政はそのような考え方に立つべきではない。