東京電力福島第一原発事故で発生した「指定廃棄物」(表①)の処分場建設を巡り、各地で住民の反発が強まっている。候補地にされた栃木県塩谷町(しおやまち)で8月29日、町民ら約2700人が反対集会を開き、白紙撤回を求める決議を採択した。宮城県加美町(かみまち)では8月28日と31日の二度にわたって、同じく指定廃棄物の処分場建設のため調査に訪れた環境省の職員らを住民が道路をふさいで追い返した。両町の町長は早い段階から建設拒否を表明しており、町をあげて反対運動が起こされている。
福島原発事故では様々な放射能汚染廃棄物(表参照)が、今も膨大に生み出されている。指定廃棄物は、栃木県の場合で総量約14000トンあり、ごみ焼却施設、下水処理施設、農家の土地などに一時保管されている。これを塩谷町に設けた処分場に集め、一定期間併設される仮設焼却炉で減容濃縮し、そのあと保管する計画とされている。
この焼却炉の排ガスを処理するため設置されるバグフィルターの性能について、微粒子やエアロゾル状態のセシウムを完全にはとらえられない、バグフィルターの破損事故が頻発しているなど疑問が多く出されている。また焼却後の廃棄物は処分場で隔離して、放射能が十分小さくなるまで長期間保管・管理しなければならないが、隔壁に用いられるコンクリートの耐久性に不安もあがっている。
塩谷町からは、指定廃棄物を福島第一原発周辺の土地で集中保管することが提案されている。同時に、国の名水百選に選ばれるなど自然環境に恵まれた塩谷町の土地を、被災者の移住先や定期的保養先として提供するというビジョンも住民からの声として上がっている。すぐに意見が集約出来るような簡単な問題ではないが、福島県内の除染廃棄物(表④)の中間貯蔵/最終処分ともあわせた包括的なビジョンが求められており、住民主体の意見交換と討議をベースに解決の道を探るほかは無い。政府が情報公開せずに一方的に決定して「住民に理解を求める」(押し付ける)という現在のやり方は、事態を悪化させるばかりだ。
そもそも8000Bq/kg という線引きは、福島原発事故で大量の放射能が放出され、広い範囲で環境が汚染されたのち、政府が2011年8月に場当たり的に定めた。それ以前は100Bq/kg を超えるものは放射性物質として扱うことになっていたので、基準は一気に80倍も緩められている。福島原発事故前であれば放射能汚染物質として扱われるべきだった表②の枠に含まれる多くの廃棄物は、全国のごみ焼却工場をはじめとする様々な施設で、安易に燃やされてしまっている。
現在「指定廃棄物」とされているものだけでなく、福島原発事故前の基準である100Bq/kg を超える汚染物については減容焼却を一旦中止し、あらためて放射能の排出基準を設定し直す必要がある。また焼却施設の立地基準についても再検討しなくてはならない。
原子力市民委員会は、近く発表する特別レポートNo.2「核廃棄物管理・処分政策のあり方」の中で、この問題についてもさらに詳しく分析している。