東京電力福島第一原発の事故で、自衛隊のヘリコプターが上空から使用済み核燃料プールに海水を投下しようとしていた映像を覚えている人は多いでしょう。過酷事故ではプールが冷やせなくなり、原発事故を一気に拡大させる源であることを世間に知らしめたシーンでした。
現在、使用済み核燃料はおよそ17000トンが各原発サイトならびに日本原燃の六ケ所再処理工場(青森県)に貯蔵されています。これらのほとんどがプールによる湿式の貯蔵です。原子力市民委員会は危険を減らすために、金属キャスクを使った乾式貯蔵へ移行することが望ましいと考えています。
プールの冷却能力が電源喪失などで長時間にわたって失われると、冷却水の蒸発で核燃料被覆管の火災と、これによる核燃料溶融(メルトダウン)のリスクが高まります。発熱量の高い新しい使用済み核燃料で火災が起きれば、古い核燃料に燃え移ってしまう恐れもあります。
電力各社は、これまで新たな貯蔵施設の設置には消極的で、既設のプール貯蔵の稠密化(リラッキング)で貯蔵容量を拡大してきました。これは使用済み核燃料を収容するラックの間隔を狭めて、限られた容量のプールにより多くの本数を収容しようとするもので、メルトダウンのリスクが高まるなどの問題があります。
原子炉から取り出した直後の核核料は発熱量が高いため、一定期間はプールによる貯蔵が避けられない面がありますが、プール内の貯蔵量を必要最小限にしておけばリスクを減らすことが出来ます。現在、日本の大半の原発は停止してから4年以上経過しているので、ほとんどの核燃料は乾式貯蔵に移せる状態です。
原子力市民委員会は脱原発の一環として、再処理工場を直ちに閉鎖することを提言しています。すでに貯め込まれている使用済み核燃料は再処理せず、そのまま高レベル放射性廃棄物として扱います。最終処分については市民参加のもと、ひとつひとつ丁寧に議論しながら合意形成することが重要で、その間の使用済み核燃料の貯蔵管理はかなり長期に及ぶことが想定されます。原子力市民委員会は、核物質をいたずらに拡散させないのが賢明と考え、既設の原発敷地内での乾式貯蔵への移行を優先的な選択肢として提案しています。
国も、乾式貯蔵施設や中間貯蔵施設の建設・活用の促進を打ち出していますが、これは原発と核燃サイクルの延命のために増え続ける使用済み核燃料の貯蔵能力を拡大させようとするものです。原子力市民委員会が乾式貯蔵を提言しているのは、原発からの撤退を決めた後に残る使用済み核燃料の総量を確定させたうえで最終処分(再処理せずに直接処分)するまで適切に管理するためです。この違いは強調しておきます。