【連載】『原発ゼロ社会への道 2017』論点紹介 第19回
第2章 東電福島原発事故現場の実態と後始末
1.中長期ロードマップと事故現場のいま
(p.94-102)
福島第一原発事故サイトの後始末作業の計画内容は、政府が「中長期ロードマップ」として作成している。事故直後の2011年5月に最初の計画が策定され、その後2012年7月に第1回改訂、2013年6月に第2回改訂、2015年6月に第3回改訂、そして2017年9月に第4回改訂が行われた。
第3回から第4回の改訂において、作業の工法における変更点は多少あったものの、大きな変更点は認められない。例えば、作業の中心となる溶解核燃料(デブリ)の取り出しに関して、原子力損害賠償・廃炉等支援機構は、従来計画していた格納容器を水で満たす「冠水工法」は技術的に難しいと判断し、水位を低くしたまま空気中で取り出す「気中工法」が現実的だとする工法案を公表した※1。しかし、廃止措置終了までの期間を30年~40年後と表示し、これが現時点での公式の終了期間としている点に関して、変更はない。つまり、具体的な工法のいかんを問わず、高線量被ばくが予想されるデブリの取り出しを急いでいるという点において、その基本的な姿勢に変わりはない。
そもそも、事故を起こした原子炉の現状はどうなっているのか。2016年10月、国際廃炉研究開発機構(IRID)は、宇宙線ミュオンを利用した探査の結果として、人間が入ることのできないほど放射線レベルの高い原子炉建屋内のデブリの状態を発表した。それによると、デブリは核燃料集合体の材料だけではなく、周囲の鋼材やコンクリートと一体となり、重量は事故前の燃料集合体の約2倍に膨れ上がっている※2。さらには、2017年2月に行われたロボットの挿入による格納容器内の放射線レベルの調査においては、推定で毎時80シーベルトという極めて高い数値が示され、当面人間が接近して作業が出来る環境ではないことが明らかになった。また、これらの調査の技術自体も開発途上であり、実際に調査ロボットの故障などが起きたりもしている※3。
無理に廃炉を急ごうとするロードマップの下で、事故現場では様々な弊害が生じている。例えば、現在事故サイトには毎日約6千人が除染を中心とした作業に従事しているが、その多くは未熟練労働者である。労働者の実質作業時間は1日2時間程度であり、これは、後始末作業を最終的にやり遂げる熟練作業員の高線量被ばくを避けるための環境づくりのために、多くの除染作業員を従事させていることを意味している。毎月約450人の作業員を新規に入構させ、同数を退域させており、これは未熟練労働者の「使い捨て」であると言わざるをえない※4。
未完成で先の読めない技術に頼り、多くの未熟練労働者に高線量被ばくを押し付ける現在の中長期ロードマップは、根本的に見直す必要がある。そして、既存の技術を中心とした、作業員の安全や健康リスクに十分に配慮した、実行可能で着実な工程を示す必要があるのではないだろうか。
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