【連載】『原発ゼロ社会への道 2017』論点紹介 第18回
第1章 東電福島原発事故の被害と根本問題
テーマ4: 被災者のための法整備とは?
4-7.行政の在り方を見直す
(p.82-84)
前回の記事では、今必要とされる法制度と体制について紹介した。ただ、法律が改正されたからといって、放射能汚染の管理が適切に行われ、被災者の健康が守られるわけではない。法律にもとづいて政策を実行していく行政も同様に、注目する必要がある。そこで今回は、現在の行政の問題点を指摘したい。前回の記事と同様、『原発ゼロ社会への道2017―脱原子力政策の実現のために』のP.82とP.83の内容を、以下に掲載する。
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多岐にわたる原発事故被害への対応は、細分化され、多くの省庁に振り分けられている。これにより、縦割りとなり、責任回避が容易となり、被害者救済よりも、既存の省庁の思惑が色濃く反映された意思決定がなされがちとなっている。
原発事故の避難指示区域の設定や解除に関連した一連の意思決定は、主として内閣府原子力災害対策本部被災者生活支援チームによって行われてきているが、このチームは経済産業省の人員によって占められている。なお、避難指示の設定や解除の基本方針を決める際には、原子力安全委員会(当時)が被ばく防護の観点から意見を述べている。
環境省は、除染も所掌しており、前述のように大量の除染土の処分に苦慮し、むしろ放射性物質を拡散する政策をとり始めている。環境省が「規制と推進」を兼ねているため、きちんと規制を行うことができない事態になってしまっているのである。
放射線審議会は、「放射線障害の防止に関する技術的基準の斉一を図ること」※1を目的として、文部科学省に設置されていた諮問機関であるが、2012年、原子力規制委員会発足時に同委員会に移管された。東電福島原発事故後の目立った動きとしては、労働者の緊急時被ばく限度を引き上げる法令の改正案を「妥当である」と答申したことである※2。
東京電力の賠償に関しては、文部科学省のもとに置かれた原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)が指針を決めている。しかし、指針を実際に運用しているのは東京電力である。
前述の原発事故避難者の住宅支援に関しても、災害救助法による住宅提供は国の機関としては当初は厚生労働省が、その後は内閣府が所掌した。実際の運用は、法廷受託事務として都道府県が担っている。自主避難者への住宅無償提供の打ち切りに関しては、福島県が決定したことになっているが、実際には復興庁が主導していた形跡もある※3。
復興庁は、2012年2月、東日本大震災からの復興を使命として内閣府に設置された。「東日本大震災」には福島第一原発事故も当然含まれる。原子力災害には、放射性物質による汚染の対応や、被害・加害の関係が存在するといった特殊な要因を含んでおり、地震・津波による自然災害への対応とは異なる面も多い。また、「復興」を前面に出し、「加速化」することが重視され、影響の把握や被害救済がおろそかになっている。また、復興庁という行政組織は、震災発生から10年となる2021年3月31日までに廃止されることとされている(復興庁設置法21条)が、原子力被害はその後も長期にわたって続く。
「子ども・被災者支援法」に関しては、多岐にわたる分野の調整を復興庁が担うことになっていたが、被害者の救済をミッションとして、中心となって法の実施を推進する省庁は不在であった。責任担当省庁を明確に指定していなかったことは同法の欠陥であったが、これは法改正によって明確化するとともに、今後の復興行政の組織体制を見直すなかで整合をはかる必要がある。
上に見た現行の行政体制の諸問題に通底するのは、次のような欠陥ないし機能不全である。
② 原子力被害対応に特化した主体的対応が欠如している。
③ 放射能汚染に対する規制が機能していない。
④ 被害者をはじめといたステークホルダーの意見を聴き取り、政策に反映することができていない。
①②の対応としては、被害の拡大防止や被害者救済を使命として関連省庁に号令をかけるための新規の組織が必要であろう。大綱2014年では「人間の復興」の企画・立案・実施する行政組織として〈福島原発事故賠償・復興機関〉(仮称)の設置を例示した※4。現在、避難・帰還などの重要な政策が実質的には経産省などにより決められてしまっていることを考えれば、新しい復興機関の独立性、透明性を高く保つ必要がある。
また、④の弊害を解決するために、組織設立の根拠法の中に、被害者・地域住民・支援民間組織などの意見聴取や政策決定プロセスへの参加を明確に位置づける必要があろう。
③に関しては、本来、環境省が規制を担うべきと考えられるため、環境基本法以下の大気汚染防止法などの各法で具体的に規制基準などを盛り込むとともに、現在の「放射性物質汚染対処特別措置法」の見直しが必要である。
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