廃炉ロードマップは絵に描いた餅〔筒井哲郎〕

廃炉ロードマップは絵に描いた餅〔筒井哲郎〕

 現在、福島第一事故サイトの後始末作業は、政府・東京電力が2013年6月27日に策定した「中長期ロードマップ」※1を基本に、毎年少しずつアップデートしながら進めている。全体としての「廃止措置終了までの期間」を30~40年後と表示しており、これが公式の終了期間として、地元自治体の復興計画やそのほかのすべての政策の基本をなしている。

 このロードマップは、たくさんの開発項目を前提にして、「それらの開発がすべて成功すれば30~40年で後始末が完了するであろう」というスケジュールである。そして、事故後5年半、ロードマップ策定後3年を経過した現時点において、汚染水対策の柱であった凍土壁は失敗し、その他、燃料デブリの取り出しに係る項目のうち、計画時期が過ぎたものはいずれも未完了である。さらに、今後に控える廃棄物処理に係る計画も、短かい年月で結論が出る種類の問題ではない。未完成の技術を前提として立案したロードマップは、絵に描いた餅であった。

東京電力(株)福島第一原子力発電所1〜4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ
 ロードマップでは、次工程に進む判断の重要なポイントにおいて、追加的に必要となる研究開発や、工程または作業内容の見直しも含めて検討・判断することとしており、これを判断ポイント(HP)として設定している。

 原子炉本体に係るロードマップの中では、目標期限を過ぎたか、期限が迫っているHPに下記のものがあるが、予定通り終わった項目は一つもない※2

  HP 1-1:燃料・燃料デブリ取り出し計画の選択(2014年度)
  HP DE-2:格納容器内調査方法確定(2016年度)
  HP IW-1:陸側遮水壁設置の技術的課題の解決状況の検証(2013年度)
  HP ND-1:原子炉施設の廃止措置シナリオの立案(2015年度)

 2015年6月に出されたロードマップの部分的な改訂版では、「判断ポイント」という符号は消されている。そして、上記の「HP 1-1:燃料・燃料デブリ取り出し計画の選択」に相当する部分は、期限を2016年度末に変更されている※3

 「HP ND-1:原子炉施設の廃止措置シナリオの立案(2015年度)」というのは、事故サイトの最終的な姿(すなわち、更地にするのか、一部分を残しておわりにするかなど、といった最終形状)を計画策定時に決めないでおいて、2年後の2015年度に決めるとしたのである。けれども、2016年の今、この点について何の発表もない。現状の計画は、プロジェクトの全貌を描くことさえできていないのである。

 共通項目に係るロードマップの中では、「HP IW-1:陸側遮水壁・・・」は、このロードマップが立案されて間もなく2013年9月に「凍土壁計画」が決定されて、345億円を投じて建設された。海側の凍結作業のみを3月末から半年間行い、セメントや薬剤注入の追加工事を行った上で、本年10月13日に全体が0℃以下になったと発表した。全体の遮水効果の確認は今後に残されている※4

 ロードマップが、露呈している重大な欠陥は、総費用、総動員人員数、総被ばく労働者数などの基本的な資源投入を明示していない無責任な作文だということである。そして、その費用は政府が国家予算から原子力損害賠償・廃炉等支援機構をつうじて、単年度ごとに野放図に注入している。その上、電事連はこの廃炉費用を、総額不明のまま、国費で補助するように求めている※5。この無計画性は直ちに矯正しなければならない。

 課題を技術面にもどすと、政府は既存の技術のみで実行可能な計画をまず作り、その後、一定の間隔で新しく開発に成功した技術によって短縮可能な要素を織り込みながら改訂していくのが、大規模プロジェクトの計画のあり方として正道である。



※1. 「東京電力㈱福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」原子力災害対策本部
    東京電力福島第一原子力発電所廃炉対策推進会議、平成25年6月27日、p.83~88
    http://www.meti.go.jp/press/2013/06/20130627002/20130627002-3.pdf
※2. 同上。
※3. 「東京電力㈱福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」廃炉・汚染水対策関係閣僚会議、
    平成27年6月12日、p.29
    http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/pdf/20160317.pdf
※4. 「福島第一原発の凍土壁 海側『全て凍結』」『東京新聞』2016年10月14日
※5. 「福島原発8兆円負担増 電事連、国費求める」『毎日新聞』2016年10月4日夕