原子力規制委員会は、九州電力玄海原発3、4号機(佐賀県)が新規制基準に適合しているとする審査書案を2016年11月9日に了承し、再稼働に向け手続きを進めています。原子力市民委員会は、この審査書案についてのパブリック・コメント文例をまとめ、12月6日に公開しました※1。玄海原発だけでなく、川内原発など、すでに再稼働している原発が抱える問題点も明らかにしています。
一つは、今年4月の熊本地震で震度7の揺れが2度続いたような過酷な状況を検討していないことです。
最大級の揺れ(基準地震動)に連続して襲われるとどうなるか、重要機器の一つである蒸気発生器を例に見てみましょう。規制委がすでに審査を終えた加圧水型原発(川内1、2号など計8基)の耐震計算書を調べると、基準地震動一発で、どの原発も蒸気発生器内の部品に、揺れによる変形が残ってしまう可能性があるとわかりました※2。変形が残ったままで、もう一度大きな揺れに見舞われると、蒸気発生器が壊れて重大な事故を引き起こすおそれがあります。玄海3、4号機は耐震計算書がまだ公表されていませんが、同様の問題があると思われます。大きな揺れが繰り返されることも想定して新規制基準を見直し、審査をやり直す必要があります。
二つ目は火山対策です。巨大噴火が繰り返されてきた九州に立地しているにもかかわらず、火山灰を過小評価しているので、非常用ディーゼル発電機が使えなくなる危険性があります。
玄海原発の非常用ディーゼル発電機は、火山灰濃度33.4mg/m3でも機能することを確認したと規制委は発表しています※3。この濃度は、米国の火山噴火(1980年、火山灰噴出量1km3)の際に約135キロ離れた場所で観測された値です。規制委は、濃度をさらに約30倍の1g/m3に引き上げて想定するよう電力会社に指示したと報道※4されていますが、これでも不十分です。1g/m3は富士山宝永噴火(1707年、火山灰噴出量 0.7km3)の際、85キロ離れた地点で推定される値です。玄海原発は、たまたま研究が進んでいる富士山ではなく、阿蘇山での噴火を想定する必要があります。阿蘇山の噴火規模は200km3(玄海原発から距離136km)と予測されているため火山灰濃度は審査の想定より2桁も高くなり、フィルタをすぐに詰まらせて非常用ディーゼル発電機を止めてしまうおそれがあります。
三つ目は、重大事故が起きた時に放射性物質の拡散を防ぐため、九電は放水設備を配備するとしていますが、まったく役に立たないことです。ガス状の放射性物質や、3次元的に拡散する浮遊物を、棒状の放水で捕まえることはできません。水鉄砲で火の粉を落とそうとするようなものです※5。
パブコメ文例では、ほかにも数多くの問題を列挙しています。規制委は、これらの指摘に説得力を持って答えられるまで、玄海原発3、4号の再稼働を認めるべきではありません。
※1. 原子力市民委員会「九州電力株式会社玄海原子力発電所3号及び4号炉の発電用原子炉設置変更許可申請書に関する審査書(案)
についてのパブリック・コメント文例」2016年12月6日
http://www.ccnejapan.com/20161206_CCNE.pdf
原子力市民委員会の原子力規制部会および原子力規制を監視する市民の会のアドバイザリーグループ、プラント技術者の会、
NPO法人APASTのメンバーの意見をとりまとめたもの。パブリックコメントは12月9日に締め切られている。
※2. 滝谷紘一「繰り返し地震を想定する耐震基準改正を求める」『科学』2016年12月号、p.1205
※3. 原子力規制庁「発電用原子炉施設に対する降下火砕物の影響評価について」2016年11月16日
https://www.nsr.go.jp/data/000170263.pdf
※4. 「原発への火山灰、想定今の300倍に 規制委」朝日新聞2016年11月17日朝刊
※5. 筒井哲郎「水鉄砲で火の粉を落とす:形骸化する規制審査」『科学』2015年5月号、p.506