【連載】『原発ゼロ社会への道 2017』論点紹介 第4回
第1章 東電福島原発事故の被害と根本問題
テーマ1: 福島原発事故後の避難をめぐる「現状」と向き合う
1-4.コラム:国際法上の「国内避難民(IDPs)」としての
原発事故避難者(pp.42-43)
国際的な人道支援システム(国連諸機関、各国政府、NGOなどが連携して人道支援にあたるためのルールと実行体制)において、「国内避難民」(IDPs:Internally Displaced Persons)という概念がある。この概念とそれに関する国際法・国際基準は、原発事故避難者への支援を考えるうえでも重要である。国連人権委員会(現在の人権理事会)の政策ガイドラインである「国内避難に関する指導原則」(1998)では、IDPsを次のように定義している※1。
武力紛争、暴力、人権侵害、自然災害、人為災害などがもたらす事態の結果として、あるいはこれらの事態による影響を回避すべく、家や居住地から逃れたり離れたりすることを強制されるか、または余儀なくされた人々や集団であって、国際的に認められた国境を越えていない者
東電福島原発事故という人災による避難者は、強制避難であるか自主避難であるかを問わず、この定義に合致する。国連組織、NGO、国際赤十字社/赤新月社などの諸機関が自動支援の進め方を協議・決定・調整していく「機関間常設委員会」(IASC)※2では、国内難民問題の「持続的な解決のための枠組み」を2009年にとりまとめている※3。この「枠組み」と上述の「指導原則」に照らして見ると、原発事故避難者について、以下に挙げるような要件を対応の基本にすえることが本質的に重要であることがわかる※4。
- 原子力災害による避難者・移住者が国際人道法におけるIDPsであると認め、国際法の基準に則した対応と評価を行うこと
- 避難指示区域外からの「自主避難者」(自発的避難民、自力難民)を原子力災害の被害者として認め、支援と保護の対象とすること
- 「帰還」以外に「移住」「再定住」などの選択肢も想定した政策対応をとること
- 当局と避難者の折衝に、法律家やNGOなどの第三者を介在させ、当事者の意思や希望を十分にくみ上げること
国連人道問題調整事務所(OCHA)の日本語ウェブサイト※5では、IDPsの置かれた状況を解決するにあたって、次のような側面が強調されている。
解決策のないまま長期の避難を強いられる国内避難民に対し、短期の緊急援助に重点を置いた現在のアプローチのみでは、十分でも持続的でもありません。国内避難民の政経が外部からの支援に依存してしまうような支援者中心の考え方から、国内避難民自らが解決策を見いだせるよう支援するアプローチに転換する必要があります。つまり、ただ人道ニーズを満たすだけでなく、国内避難民の尊厳を守り、生計作りや自立を促し、受け入れコミュニティの開発にも貢献するようなアプローチが必要となっているのです。
まさしく、原発事故避難者に対する国や県などの現行の政策が抱える多くの問題の根っこの原因が指摘されていると感じるのは筆者だけであろうか。
>>この連載の目次・他の記事はこちら
Hasegawa, R. (2015), Returning home after Fukushima: Displacement from a nuclear disaster and International Guidelines for IDPs. Migration, Environment and Climate Change: Policy Brief Series 4(1) pp.1-8. International Organization for Migration (IOM), Geneva.
Hasegawa, R. (2016), Five years on for Fukushima’s IDPs: Life with radiological risk and without a community safety net. International Displacement Monitoring Centre, Website Library, 11 March 2016. www.internal-displacement.org/library/expert-opinion/2016/five-years-on-for-fukushimas-idps-life-with-radiological-risk-and-without-a-community-safety-net/)