【連載】『原発ゼロ社会への道 2017』論点紹介 第15回
第1章 東電福島原発事故の被害と根本問題
テーマ4: 被災者のための法整備とは?
4-4.放射性物質を規制する法的枠組みの現在―1
(pp.75-76)
今回は、福島原発事故に関連する賠償や支援を規定する法律からは離れて、そもそも放射性物質は現状の法律においてどのように規制されているのか、皆さんと一緒に見ていきたい。
現在、環境汚染に関する法的な規制は、環境基本法を上位法とする水質汚濁防止法や大気汚染防止法といった環境関連法の下で行われている。これらの法律は、頻発した過酷な公害事件を受けて、厳しい罰則が付いて1970年代前半に立法化された。しかし放射性物質は、長い間環境基本法の第13条において「適用除外規定」として定められ、監視や規制の対象から外されてきた。そのため放射性物質の規制は、環境基本法の前進である公害対策基本法が施行される以前から存在していた、原子力関連法(原子炉等規制法や放射線障害防止法など)に依拠したままとなっていた。
しかし、福島第一原発事故によって未曽有の放射能汚染が発生したことを受けて、2012年には環境基本法の「適用除外規定」が削除され、大気汚染防止法、水質汚濁防止法、環境影響評価法についても、除外規定が削除された※1。これによって、放射性物質は公害物質として改めて位置付けられることになった。本来ならばここで、他の公害物質と同様に、排出基準、違反した場合の罰則、環境基準、総量規制、常時監視体制、自治体の条例による上乗せと横出し規定などが定められるべきであった。しかし、環境省に全くその動きがないまま、今日に至っている。
一方で、福島第一原発の事故建屋や排気塔からは、大気中への放射性物質の排出が続いている。それだけでなく、原発事故由来の放射能によって汚染されたあらゆるものから、放射性物質は様々な経路をたどり、再び大気中あるいは水圏へ流出している。さらには、除染廃棄物や汚染したほだ木(きのこなどを栽培するための天然の木)や牧草、わらなどの農業資材においては、「減容化」と称して焼却処理されるにあたって排煙処理装置でとらえきれなかった放射能が、煙道から排出されることもある。木質バイオマス発電所や一般廃棄物焼却工場、家庭用の薪ストーブや薪炊きのかまどの煙突からも、放射能は放出される。そして、これらの焼却灰などを埋め立てた最終処分場の排水口からも、放射能は流放出される※2。
かつてごみの焼却に伴うダイオキシンの生成が問題になった際には、学校内に設置されていたごみ焼却炉は全廃、ダイオキシン類対策特措法等による野焼きの禁止、大型焼却炉に対するダイオキシン類規制などが実施され、法律の規制対象外であった小型焼却炉に対しても、自治体の環境規制条例による規制措置が取られた。そして、宗教的行事等を除いては、焚き火もできなくなった。このようなダイオキシンに対する厳しい規制と比べると、放射性物質の排出はほとんど規制されず、野放しの状態にあると言える。
そんな中、唯一の排出規制基準として存在しているのが、原子炉等規制法が定める、排水中濃度限度(セシウム137について90ベクレル/ℓ)と排ガス中濃度限度(セシウム137について30ベクレル/㎥)である。しかしこれが意味するのは、放射能を取り扱う日本中の様々な施設や装置が、原子炉と同じ基準でしか規制されないだけでなく、それらを監視する体制もない状態にあるということだ。さらには、原子力関連法には罰則がないため、「基準数十倍、数百倍の汚染水が流れた」という報道があったとしても、それに対する規制や警察による捜査は行われない。
通常、有害化学物質は、環境基本法によって環境基準が設定され、水質汚濁防止法や大気汚染防止法によって排出基準が設定される。環境基本法の第13条が消去され、放射性物質に対する「適応除外規定」が削除されたことにより、放射性物質もまた、他の有害廃棄物とともに厳しく制限されることになるはずだった。しかし環境省は、放射性物質については、IAEA(国際原子力機関)の基準に従っているとの理由から、新たに環境基準や排出基準を設定する必要性はないとの立場にたっている※3。
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